都市に自然の風景を作り出しその中に住み込む 以前より「RC躯体で敷地を矯正して人口の自然を作り出し、そこに直接住み込む」という手法を探っている。躯体は土地の一部として荒々しく、内部造作はコントラストをつけてきめ細かく仕上げた。コンセプチュアルな表現と住む機能を分けて扱うことで、快適を担保しながら建築的表現を実現するように努めている。 敷地三方は隣家が迫っていた為、道路に開き北向きU字案とし、一層上がった既存敷地へのアプローチを内部空間とすることで大きなゆとりを作った。Uの根元を階段室として東西の棟を振り子状に半層ずつスキップさせ全体を緩やかにつないだ。岩山をイメージした全体ボリュームは一層ごとにセットバックしていく。岩が侵食され、出来た窪みに土がたまり、そこに植物が生えた光景を再生した。 全てPC上の三次元空間で立体として計画するが、プログラムを整理して全体構成を荒いボリュームで押さえた後は、シーンを紡ぐように空間を手で掘り進みながら、全体の空間と機能を調和させるような作業を繰り返した。結果そこにシークエンスがうまれ、岩山(渓谷?)とそこを行く道(path=人に踏まれてできた小道)が生まれた。 全体の造形は、スイスで Zumthor の建築を巡りながら岩山のイメージを焼き付けたが、むしろ幼少に親しんだ伊豆の柱状節理がモチーフになった。一般解ではないと思うが、作家として信頼を置いてくれる施主のための空間づくりに専念した。
建物中に張り巡らされた path は様々なシーンを作る。スキップした各階に廊下はほぼなく、スペースを直接数珠つなぎにしたような空間が階段の両側に伸び、半島のように中庭を挟んで対面している。中庭は侵食されは岩山の足元に堆積した土のように、内部の段とシンクロしながら段々にせり上がり、登り切ったところでリビングとダイニングの大開口を介して室内と繋がる。各居室の窓は階段室方向に振り向くように配置され南の光を取り込む。また、隣地側外壁は全て耐力壁で開口はスリットのみだが、南面の三層高のガラスブロックからの拡散光が階段室とその周囲の部屋まで終日照らす。東京の夏の日照制御に北向きの中庭が貢献した。外断熱の内部ではRC躯体が最低限の化粧のみで露出し、間仕切壁や天井は一切ない。居室部分には床を張っているが、一体でデザインされた造作家具と床が設備を含めて生活機能を全て担っている。所謂階段(蹴上180mm)の他に段(蹴上150mm)が70以上もある家だが、大人の動線(駐車場・DK・寝室・屋上)はEVで直通とし、不便を解消している。